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業界インタビュー

インフォアクシア 植木真氏

2007/08/20

2007年5月17日にWCAG 2.0(Web Content Accessibility Guidelines 2.0)のワーキングドラフトが更新され、ウェブアクセシビリティへの関心がいっそう高まっている。日本、世界におけるウェブアクセシビリティへの取り組みや現状の問題点、ウェブアクセシビリティの今後について、この分野の第一人者、株式会社インフォアクシアの植木真氏にうかがった。

聞き手

デジパ:加藤、土屋

加藤

そもそもウェブアクセシビリティに関わるようになったキッカケは何だったのですか?

植木

5、6年前、ユーザビリティのコンサルティング会社に転職しまして、その会社でアクセシビリティのチェックツールをローカライズするプロジェクトの話があって、それを担当することになったのがキッカケです。チェックツールのローカライズをしていく中で、たとえば全盲の人ともお会いする機会を持てるようになったんですが、彼らがパソコンを使ったり、点字をなぞっているところを見たりするようになって、全盲の方2人と弱視の方と僕の4人でサンフランシスコのステーキレストランで食事したこともありましたね。それに、全盲の人が全盲の人にパソコンを教える勉強会を見学したこともあるんですが、80歳過ぎのおばあちゃんが失明してしまってグーグルの使い方を一所懸命に習っていたのを見て、ウェブを障害を持っている人たちにとって、もっと使いやすくしていきたいという想いを強く持つようになりました。

加藤

5、6年前というとアクセシビリティに関して、いろいろ環境が整備され始めた頃ですね。

植木

米国ではリハビリテーション法508条が施行されて、日本ではJIS X 8341-3の策定が始まろうとしていた、そんなタイミングです。もともとJISというのは経済産業省の所管で、経済産業省としては電子政府、電子自治体の推進する上で、使える人、使えない人、いわばデジタルデバイドが出ないようにしたい。そこで主に官公庁、自治体が取り組むためにはどうしたらよいのか、それを日本工業規格にまとめたい、という流れがありました。欧米のアクセシビリティに関する取組みは公共分野からはじまってますが、実際JISが制定されて、日本では蓋を開けてみたら官公庁より企業サイトのほうが積極的でした。欧米の専門家たちと情報交換していても、おそらく日本が企業サイトの取組みにおいては世界をリードしているのではないかという話が出るくらいです。

加藤

JISのガイドラインの策定には制作サイドのお立場から関わっていらしたのですか?

植木

策定作業の最後の1年間だけ関わっていて、大学の先生とかメーカーの研究者、同業のコンサルタントなどと一緒に策定していました。僕がウェブ業界に入ったときは制作会社のディレクターをやっていまして、そのあと企業サイトのウェブマスター、そしてコンサルティング会社に転職したので、ウェブコンテンツを制作する側と、作ってもらう側、どちらでもない第3者的立場というのを渡り歩いてきました。JIS X 8341-3の策定に関わっていたメンバーやアクセシビリティの専門家の中では、そういうキャリアを持っているのは僕だけなんですよ。ですから、立場としては、コンサルタントになるんですが、気持ちとしては制作と運営の両方でしたね。標準化している現場とコンテンツ制作やサイト運営をしている現場との橋渡し、さらには日本のJIS X 8341-3と国際標準のWCAG2.0との橋渡し、そういうブリッジ的な役割が自分のミッションだと思ってます。

加藤

欧米と日本のアクセシビリティにはどんな違いがあるのでしょう?

植木

JISを作ったときに既存のガイドラインになかったものとしては、例えば、単語の間にスペースや改行を入れてはいけない、というのがあります。スペースや改行が入ってしまうと読み上げソフトからひとつの単語として認識されなくなるからです。WCAGワーキンググループで「日本ではこういう理由でスペースや改行を入れてはいけない、というガイドラインを作ったんだけど、英語や他の言語で同じ問題はないですか?」と訊いたところ、英語なんかでもスペースを入れたりすると単語ではなく、アルファベットで読み上げられるという同じ問題があったんです。他にも、形や位置だけで情報を伝えないとか、JISにはあってWCAGにはなかったガイドラインのほとんどが、今ではWCAG 2.0ワーキングドラフトの中に盛り込まれていますよ。WCAG 2.0が出た時点では、たぶん、言語に関係なく世界共通のものという感じになってくるんじゃないかと思います。

漢字の読みがなに関しても海外の人は理解できていなかったのですが、事例を交えて説明して日本語にはそういう問題もあるんだということを理解してもらって、それに関する項目もWCAG 2.0ワーキングドラフトに入っていますしね。WCAGワーキンググループも国際化、つまり特定の言語に依存しない、という方針があるので、日本からの提案や意見も取り上げられるようになっています。

植木真氏写真
(上記画像左側)インフォアクシア植木真氏
(同右側)アクセシビリティのポータルサイト、infoaxia(インフォアクシア)

土屋

今アクセシビリティで問題になっているのはどこですか。

植木

日本でいうと読み上げソフトの問題ですね。日本語の音声ブラウザやスクリーンリーダーの機能が、英語の製品なんかと比べるとかなり物足りないという点です。それがコンテンツを作る側の足かせになっている側面があって、何とかしていかないと日本だけ世界から取り残されるのではないかという危機感があります。

たとえば、見出しをマークアップしましょう、というのがありますけど、英語のスクリーンリーダーは見出しだけを拾い読みして読み上げることができるんですが、日本の主要なスクリーンリーダー、たとえば「PC-Talker」や「XP Reader」、新しいところでは「Focus Talk」などは、まだそういう機能を持っていません。

それに、もっと深刻なのは、Ajaxなどを使用したリッチなアプリケーションですね。W3Cでは、WAI-ARIA(Accessible Rich Internet Application)といって、Ajaxなどのウェブアプリケーションのアクセシビリティを確保するための仕様群の策定が進んでいます、英語のスクリーンリーダーでは、早速その仕様に沿って作られたものを読み上げられるものが出てきています。でも、日本のスクリーンリーダーは、果たして対応していってくれるのかな、というのを心配しています。そういったアクセシビリティを、コンテンツ制作者やサイト運営者だけじゃなくて、スクリーンリーダーの開発者、ベンダーにも働きかけていかないと、使いたい新技術が使えないジレンマに陥ってしまうので、何とかしなければいけないと思っています。

土屋

日本でデフォルトの読み上げソフトというと…

植木

音声ブラウザではIBMのホームページリーダー、スクリーンリーダーは個人的な感触ですがPC Talkerあたりのユーザーが多いですね。ホームページリーダーは機能的によいのですが、IE7とWindows Vistaに対応しないことを発表しているので、これからどうなるのか。海外には高機能なJAWSというスクリーンリーダーがありまして、日本語版もあるのですが価格が15万円くらいします。海外はJAWSがデフォルトで、JAWSで使えればOKという感じなのですが、日本では一部の人しか持っていないので、JAWSを基準とするわけにはいきません。かなり機能の劣るスクリーンリーダーをベースにしなければならず、それがコンテンツ側の足かせになる可能性があるのです。

土屋

とはいえJAWSはちょっと手が出ないですね。制作する側が検証用として用意するとしたら、やはりホームページリーダーですか。

植木

僕がおすすめしているのは、HTMLのチェックだったらホームページリーダー、FlashだったらPC Talkerですね。ホームページリーダーは、画面にも表示されるので初めてでも使いやすいと思います。PC Talkerなどのスクリーンリーダーは、画面が全く変わらないので、慣れるまでは使いにくいかもしれません。ホームページリーダーも、最新版の3.04でFlashに対応しているのですが、バグがかなり多くてちゃんと読まなかったり、途中でフリーズしたりするので、前バージョンの3.02をそのまま使っているユーザーも少なくないようです。

土屋

全盲の人がスクリーンリーダーを使い始める、というところで壁があるような気がします。フリーのスクリーンリーダーが出ないかなと思うのですが。

植木

ちょうどいま、オープンソース化の波がアクセシビリティにも来ていて、スクリーンリーダーも無料、かつオープンソースのものが出てきています。実はそれを日本語化しようという動きも既にあるんですが、機能はJAWSに似せているので、それが日本語でも使えるようになれば機能的にも十分ですし、ユーザーの経済的な負担もかなり軽くなるでしょうね。もしそれが実現できれば、国内のベンダーさんにとっても良い刺激になるんじゃないかなと思っています。またIBMさんもIBMさんで、ちょっと違うレイヤーというか、違う切り口で考えていらっしゃるので、決してアクセシビリティ関連の取組みを止めたということではないようですよ。

加藤

ところで、制作者側はアクセシビリティに対してどんな心構えで臨んだらいいのでしょう。

植木

アクセシビリティを後付けで考えているうちは無理があると思います。アクセシビリティを前提としてビジュアルも考えていかないと、本当の意味でアクセシビリティを考慮したサイトは作れないと思います。ウェブコンテンツは画面で見るだけじゃなく、音声にも変換できるし点字にも変換できる。そういうふうに、ユーザーが情報のカタチを自由に変換できるメディアだと思うので、まずそのことを一緒に考えていきたいですね。

以前、富士通のサイトをデザインしていたデザイナーさんが,「アクセシビリティを確保したコンテンツを作るようになって、制作の前提が変わった。ただ、前提が変わるだけであって、やることは変わらない。その新しい前提の上で、自分のクリエイティビティをどこまで発揮できるかが課題です」とおっしゃっていました。そういう意識の切り替わりが、もっと進んでくればと思います。

加藤

おしゃる通りですね。いままでウェブデザインというとビジュアルデザインが前提にありました。でも本来は情報をどう配置するか、情報デザインのところから入るべきなので、当然マークアップ前提のデザインになるのが当たり前なんです。とはいえ、見た目を重視されるお客様の意向もありますので、意向を理解しつつ、アクセシビリティやウェブ標準をお客様にどう説明できるかというスキルが求められています。

植木

アクセシビリティというと見た目がショボクなるとか、テキスト中心になるという誤解が未だにはびこっています。でもそれは全然違います。僕はきちんと読み上げられることが大事だと考えていますが、それ以上にビジュアルのデザインも重要だと思っています。大部分の人には視覚情報が中心なわけですから。僕は凄くビジュアルにはこだわってます。音声読み上げのためにビジュアルを犠牲にしろとはこれっぽっちも思っていません。

このあいだ、CSS Nite LP Disk 3というイベントで、ビジネス・アーキテクツの小久保浩大郎さんが「ウェブだけがユニバーサルデザインを実現できるメディアである」と話されてましたが、まさにその通りで、ウェブはユーザーが自分にとって一番都合のよいカタチに変えて情報を得ることができます。紙と違ってユーザー側に主導権があるのがメディアとしても一番の特徴だと思います。これからは、画面で表示されるビジュアルのクオリティだけでなく、音声や点字にもきちんと変換できる、そういうコンテンツを作れるスキルが求められるのではないでしょうか。

インタビューの様子写真
(上記画像右側)右から、インフォアクシア植木氏、デジパ加藤、デジパ土屋

加藤

これからのアクセシビリティはどう進展していくとお考えですか。

植木

もともと欧米ではアクセシビリティと言うと障害者を想定したものとして始まっているんですけど、それはもちろん大事なのですが、人間っていろいろじゃないですか。みんなに同じように見えるとは限らないし、みんなが同じようにマウスを操作できるわけではありません。それに、誰だって、歳をとればだんだん見えにくくなってくるし、聞こえにくくもなってくる。

毎年3月に、米国のロサンゼルスでCSUN(California State University, Northridge)というカンファレンスが開かれています。「障害者とテクノロジー」というタイトルの通りで、去年まではやはり障害者がメインだったんですが、今年は基調講演でシニアにとってのアクセシビリティという話が初めて出てきました。世界各国で高齢化が進み、高齢者がパソコンを使ってインターネットをするようになってきて、ウェブが日常生活にどんどん入り込んできているんです。その基調講演では、アクセシビリティは 「Quality of Life(日々の生活のクオリティ)」に直結するものだというふうに言ってました。ウェブのアクセシビリティは今後ますます日々の生活の向上に関わってきて、みんなにとってのアクセシビリティというものを考えていくべき時期に来ているんじゃないかなと思います。

土屋

高齢者まで視野に入れるとお客様に説明しやすいのですが、そうじゃない場合はアクセシビリティのメリットを感じてもらうのがなかなか難しいですね。結局アクセシビリティもSEOもCSSもウェブ標準ということでいっしょなんですけど。

植木

アクセシビリティでユーザー数の話になってきてしまうと、そんなもんですかみたいな話になりがちです。SEOもいまは単にソースコードだけじゃなく、どれだけリンクが貼られているかなど違うところが重視されているということもあります。でもコンテンツ側でできることを100%やらないでいいんですか、という話をするようにしています。ほかに、CSR(企業の社会的責任)みたいな入り方でも、きっかけは何でもいいんですけど、「木を見て森を見ず」という担当者さんがまだまだ多いですね。実際には、アクセシビリティの土台には、ウェブ標準があるし、ユーザビリティやインフォメーションアーキテクチャなんかとも話がつながっていくんですよ。

加藤

そうですね。本来はすべてを引っ括めてウェブサイトなわけで、アクセシビリティだけ、ユーザビリティだけという時点でまだまだなわけですね。ところでアクセシビリティ関連の今後のスケジュールはどうなっているのでしょうか。

植木

WCAG 2.0のワーキングドラフトが、最終的に勧告になるのはだいたい来年の夏くらいかなと思います。リハビリテーション法508条の改訂も準備に入っているんで、WCAGワーキンググループもそうのんびり構えてもいられない状況にあって、いまスピードアップしています(笑)。あとJISのほうも5年おきに必要があれば改訂する決まりになっているので、次は2009年。2008年にWCAG 2.0が出たら、それを踏まえたものに改訂されるでしょう。また、JISでは評価手法の検討がはじまっています。JISマークをつけるのとは違うスキームの話ですが、認証制度についてより具体的に詰めているところです。

加藤・土屋

お忙しいところありがとうございました。

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